「マジックはYouTubeで学びました」と、マジシャンをめざす少年がいった。


最近わけあって、そこそこの人数の、マジシャン志望者と話をする機会に恵まれました。その話の続きです。

みなさん20才前半でした。つまり僕より年下です。自分のあとにも、マジックを志す次の世代が生まれるのは当然のことです。いままでもそうでした。

しかし今回は衝撃でした。たんに年下というだけでなく、マジックとの関わり方について、あきらかに違う点があったからです。明確な世代の違いを感じました。

「マジックはYouTubeで学びました」

この言葉をかなりの頻度でききました。いまやマジックは、ネット動画で学ぶのが、スタンダードらしいのです。

いわば僕は「DVDでマジックを学んだ世代」です。

マジックショップでレクチャーDVDを買って勉強しました。字幕もないので、外国人の英語をうんうんがんばって解読しました。もちろん本でも学習しましたが――というか僕も本から入りましたが――世代感覚としてはそうだったと思います。

そのときも上の世代に「僕らは本やレクチャーノートで学んだもんだったなあ」と言われました。マジックは映像と文字どちらで学ぶべきか、なんて議論もありました。

それが今回さらに一つ進んだのを知ったわけです。正直、僕が疎いだけかもしれません。とにかく実際の声をきいて「そうなんだ」という感じです。

これには「ネット上に奇術の種をあげることについて」の議論もあるようです。僕としては、まあ、そうなるだろうなあというくらいです。今回も、本筋とそれるので触れません。

テクノロジーや情報伝達の手段は、変わりゆくものです。なにでマジックを学ぼうが基本的にはそういうものだと思っています。学ぶ側からすれば選べないですし(選択肢はありますが逆らえない流れはあります)。

しかし、このたび顔をあわせた範囲では「YouTubeでマジックを学ぶこと」の欠点を感じざるをえませんでした。僕が感じたというより、彼ら自身が、しきりに心配していました。

「これじゃ足りない気がして…」
「もっと、ちゃんと学ばないとなって思いました」
「DVDとか本をみないとダメな気がするんです」

こうした言葉をいくつも聞きました。どこか焦った表情にもみえました。あるいはマジックの奥深さを知らないことへの罪悪感かもしれません。

彼らの意見を総合するとこうです。

YouTubeでマジックの楽しさを知った。でも、いまのところネット動画で学ぶデメリットを感じている。それは「体系的に学べない・偏った情報だけになる」ことだと。

その理屈もわかります。現状、インターネット上には、いくらかの人たちが解説をのせているにすぎません。体系的に網羅された書籍やDVDのようにはいきません。彼らの個人的なチョイスに頼るしかないからです。

これはインプットの薄い層が増えた、ということでしょう。良くも悪くも初心者のみが増加しているわけです。この現状についても是非を問うつもりはありません。ただ現在はそういう状況で、それを不安に感じている下の世代がいた、というだけの話です。

かつ、これは「YouTubeでマジックを学ぶ世代」の全員にあてはまります。ひいては現在のマジック業界が抱えている問題ともいえるでしょう。

正直、マジシャンとして生きるなら致命的です。パフォーマンスを作る上で、ある程度のインプットは必要だからです。まっすぐに成長したければ体系的知識は必須でしょう。

もちろんネット上で解説している方々も、その重要性は解いていることだと思います。だったらDVDや本を買えばいいじゃん、という話です。しかし、それが鬼門なのだろうなと思います。

なぜなら「インターネット上で解説されている動画は無料だから」です。

この感覚は支配的です。そうそう覆せるものではないでしょう。少なくとも、マジックをはじめたときから資料を購入していた世代に比べるとハードルは高いはずです。

これが「YouTubeでマジックを学ぶ世代」の弱点だろうなと思いました。

なんだってそうです。本当に有益な情報は、無料ではありません。対価を払うことでしか身につけられません。こんなこと、だれもが理解しています。しかし、そのために身銭をきれる人と、そうでない人がいるのです。

今回も「いまさらですけど本とかDVDを集めてるんです」という志望者もいれば、でも、お金は使いたくないんだよなあ、という顔をする志望者もいました。

そんなふうに無料学習になれた「YouTubeでマジックを学ぶ世代」は、これから対価を払える人とそうでない人とのあいだに大きな実力差が生まれるだろうな、という印象でした。

今回、強く感じたのは、もしマジシャンになりたければ、まずその〝無料の感覚〟をはずすのが重要なんだろうな、ということです。それは胸のうちに、奇術の伝統に対するリスペクトを育てる、ということでもあるでしょう。なぜか人は代償を払うことでしか学べない生物なのです。

今回は、いままでになかった二極化を感じて、ちょっと考えさせられました。きっと想像以上につぎこまないといけないことに、びっくりすると思いますよ。健闘を祈ります。