今回は、マジシャンとして考えぬいた「観客から拍手をもらう方法」を解説します。
僕は、拍手について、ちょいとは考えてきた自信があります。もちろん、パフォーマンスや人前に立つ仕事をする方なら考えたことがあるでしょう。
そもそも「拍手っているの?」という問題から考えてみましょう。
僕もマジシャンをはじめたころは「そりゃ拍手はほしいけど、お願いするのはイヤらしいな……」と考えていました。観客だって、好きな形で、楽しむ権利があるはずじゃないですか。催促するのはみみっちい気がしたのです。
だからといって、拍手なしに、パフォーマンスを上手く運ぶこともできませんでした。
観客だって、パフォーマンスをみせられたあとは、その反応(エネルギー)を発散したいのです。なのに「好きに反応してくれ」といれわても困りますよね。ご想像のとおり「どう反応したらいいんだろう?」という空気になります。
ある意味「観客の好きなように反応してほしい」というのも、こちらのエゴだったのです。
もちろん拍手をもとめないのも自由でしょう。しかし、その場合「観客の拍手がなくてもいいなら、どうやって、スカッと演じていくの?」に対する答えをみつけねばならないのです。それが、いまだに思いつかないというわけです。
それよりも、拍手をもらう方が好きです。
なにより、場に、一体感や臨場感が生まれます。反応をもらえた方が、演者のテンションもあがります——もちろんイヤらしい方法で催促するのでなければ!
さらにビジネスとして考えた場合。拍手は、クライエントへのアピールになります。レストランのオーナーや、パーティの主催者、会社のイベント担当など。いわずもがなですが、パフォーマーの本当のお客さまは、目の前の観客でなく、そうした方々です。
拍手をおこすことで「ああ、私の呼んだマジシャンはちゃんと仕事をしている!」と安心してもらえます。次の仕事につながります。
ほかにも利点はあります。たとえば、テーブルホップの仕事とか。拍手があると、次のテーブルのお客さまも「なんか楽しそうじゃない?」と思ってくれます。
一般に、名前も知らないマジシャンなんてこわいものです。なにをされるかわからんからです。しかし「ほかの客が楽しそうにしてた」という保証つきなら、よろこんで招待してくれます。すっと演技に移ることができるでしょう。
①拍手がない場合、どう演技をしていいか正解がわからない
②盛りあがる
③クライエントや、その他観客へのアピールになる
以上、3つの理由より「拍手はもらうべし」と僕は考えています。
とはいえ、雑に「いまです!拍手をください!」なんて連呼するのはエレガントじゃありません。嫌味ったらしいし、そんな拍手にせものです。
拍手をもらうにも作戦がいります。
これが音楽会やスポーツなら「このタイミングで拍手するんだ」と、お約束があります。なんとなく「終わった感」をだせば拍手もあるでしょう。しかし、ある種のイベントやマジックのように「みなれないもの」の場合、そうはいきません。
観客にとって未知の体験だから。そもそも拍手が正解かもわからない。イチかバチか「このタイミングかな?」と違った場合、恥をかいてしまう——というわけです。
案外、ちゃんと考えないと拍手はもらえないのですね。
①こうなれば拍手をくださいと宣言する
②そのタイミングで拍手させる
③くりかえして強化する
僕は、そのための作戦を3つにわけています。というか、よくあるパターンを心理学的に解説しただけです。どう考えても、これ以外にありません。
①こうなれば拍手をくださいと宣言する
「このポーズをしたら拍手をください」
「こんなふうに終わった感がでたら拍手をください」
「みごと成功したら拍手をください」
ちゃんと「拍手がほしい」と宣言します。大事なのは「どのタイミングで拍手がほしいか?」を明確にすることです。
なれると、言葉を使う必要もなかったりします。小さく手をたたいたり(暗に示す)、すでに手を叩きはじめた観客に「そうです!」と目線をおくったり——ちょっとテクニカルですけど。
これを心理学で「アンカーを作成する(アンカリング)」といいます。いいように動いてもらうための、スイッチをつくるイメージです。
②そのタイミングで拍手させる
実際に、そのタイミングで拍手をしてもらいます。はじめは「これでいいの…?」と、戸惑っているかもしれません。ですから「これでいいんですよ!」と、教えるわけです。
もちろん「そうです!ここで拍手です!」と口にしてもいいでしょう。あるいは言葉にせず、目線や空気で、なんとなく察してもらうこともできます。
先ほどのアンカーを実行するわけです。
③くりかえして強化する
それを何回もくりかえします。いつものタイミングで拍手をもらって、そのたびに、アンカーを育てる(強化する)わけです。
すると、観客も、徐々にタイミングを学んでくれます。「ああ、こういう感じね」と、あちらから拍手してくれるようになります。こちらから催促せずに。嫌味っぽくもならない——まさに理想の状態です!
なお一度できたアンカーはのこります。たとえば、その観客は、一週間後にやってきても、ちゃんと拍手をくれるでしょう。もはやマジックの空気を知りつくした「プロの観客」というわけです。
基本的には、これで拍手をもらえます。
とはいえ偉そうにしちゃいけません。こっちが催促したから、好意で、拍手をくれたのです。ちゃんとありがとうございます、と伝えましょう。そして、その拍手にふさわしいくらいに、がんばって演技を作りこんでやるのです。
拍手をもらう方法。案外、ちゃんと考えないともらえません。
①こうなれば拍手をくださいと宣言する
②そのタイミングのときを察して拍手させる
③くりかえして強化する心理学的な「条件づけ」をする感じです。演奏会のあとって、自然と、拍手するじゃないですか。あれをつくるわけです。
— 浅田悠介@奇術師 (@ASD_ELEGANT) June 19, 2018