カップルにマジックをみせて殴られないために気をつけること

殴られたいですか。殴られたくないですよね。

今回はマジック(その他のパフォーマンス)をカップルにみせるときに気をつけることについて書きます。わりと重要です。

演者たるもの、案外、カップルに披露することが多いものです。喜ばしいことに、マジシャンやパフォーマーは〝お祝いごと〟〝幸せな行事〟に呼ばれることが多いわけですから。

そんなときマジシャンは(僕だけでしょうか?)女性をフォーカスしすぎてしまうのです。反応がいいのもあるでしょう。声をかけやすいのもあるでしょう。カードを引かせたり、手伝いを求めたり――なんやかんや。

実はこれが〝カップルにマジックをみせるときの殴られポイント〟なのです。

それじゃだめなのです。

カードやコインから顔をあげて観客の顔をみてください。あなたのマジックに喜んでいる女性の顔ではありません。その横の男性の顔です。

もちろん一緒になって盛りあがってくれる男性もいます。それぞれですから。しかし、なかには――彼の心のなかはどうなっているでしょう?

そうですね。あなたを殴りたいと思っているのです。

あるいは自分の身におきかえてみましょう。好きな女性とデートをしていた。マジシャンがやってきた。自分の許可もなく、その女性に「すごいっしょ?」とマジックをみせている。自分の立場がないじゃないか――殴りたくなりますよね?

これじゃあかんですね。

よろしいでしょうか。殴られたくないあなたに知恵をさずけます。崇めたまえ。これこそカップルに披露するときの黄金ルールなのですが――家族やその他団体にみせるときも――その場の主導権を持つものをフォーカスしなくてはならないのです。

「この女性はあなたのものだということを理解しています」

「立場上、あなた方に、心地いい時間をすごしたもらうためにいます」

「あなたがこの場の主導権を持っている」

「それを貸してもらっていることを忘れないつもりだ」

「私は空気を読める。ちゃんと〝わかっている〟人間だ」

くどくどしく書くとこういうことです。

これを男女の前に立って、マジックの序盤に、言葉やふるまいで、しめさなくてはならないのです。場の空気を味方につけたければ。全員に心から楽しんでもらいたければ。殴られたくなければ。

・カードを引かせるときに「ええと…レディファーストということでよろしいですか?」と男性をちらっとみて許可をとる。

・女性の両手にカードをはさんで(それが覚えたカードに変わるというクライマックス)のときに「力を借りてももいいですか?」と男性に指を鳴らしてもらう。男性がマジックを成功させた、という演出をとる。

・手にカードをはさませるときも、男女から、片手ずつ借りるようにする。

・最後、カードをめくらせるときに「どうぞ、そのカードをめくって魔法の瞬間をお連れさまにもみせてあげてください」と男性にたのむ。

・二人の関係をたたえる演出をとる。

具体例としては、こうしたものもあるでしょう。もちろん演技の前から、そうした言動をすべきですし、カップルの空気感によっても変わります。とはいえ、

「カップルの男の方は、マジシャンのことを、あんまよく思ってない」

私たちは、この真実に注意深くなるべきだと思います。オスの本能として当然ですから。知らない間に、だれかに不服な思いをさせてはいけません。マジシャンの仕事は、それを理解して、誰に対してもジェントルにふるまうことです。

例えばマジックバーにて、カップルにマジックをみせるとしましょう。

自分のマジックに、女性が声をあげたからといって、僕は気をぬかないようにしています。むしろ会計をすませて、二人が席を立つとき、男性の方に「またくるわ」といわれて、はじめて嬉しくなるのです。