・マジックは嫌いだ宣言
・勝手に道具をさわる
・オチを先にいう
・謎に不機嫌
・指示に従ってくれない
・触るなといったものを触る
・「あ、それ知ってる」「見破ってやる」「マジックはインチキだ!」
・自分がおもしろい人間だと主張したがる
・盗んだバイクで走り出す
マジシャンとしてパフォーマンスをしていると、なかなかハードパンチャーな観客にでくわします。
特にクロースアップスタイルのマジックは、それこそ〝目の前30センチ〟で魔法をおみせする芸能です。めっちゃ至近距離です。観客とのやりとりが濃厚。なおさら困らされた経験のある人は多いでしょう。
実際問題、年下のマジシャンから「観客がパフォーマンスの邪魔をしてくるときの対処法はありますか?」と質問を受けることもあります。
僕も「困った観客はこういうセリフでかわすんだよ」といったアドバイスをしていました。いわゆる冗談や──客あしらいの方法です。
しかしよく考えると、最近、僕自身はそうした悩みがまったくなかったりします。みんないいひと。人類みな友達。ウィアーザワールド。
それについて考えたことがありました。その結果「セリフや客あしらいを学べばOK」という話でもないんじゃねえかな、とも思うようになってきました。
理由は二つです。
①そもそも演者が〝邪魔したくない世界観〟を提示できていれば観客は邪魔しない。
②そうした場所で演じざるをえない演者のブランディングミス。
これを個別にみていきます。
①そもそも演者が〝邪魔したくない世界観〟を提示できていれば観客は邪魔しない。
なにごとも相手の立場になって考える必要があります。
マジシャンにとっては「ハードパンチャーな観客」であっても、あちらの事情があるはずです。そう考えると観客が迷惑行為をする大きな理由は「退屈だから」「ふざけた方がオモロイから」という感じでしょう。
すなわち、これは「マジシャンが演技に没頭させきれていないから」と言い換えられます。邪魔できないような空気をかもしだせていない。ツッコミどころを残している。という感じです。世界観不足。
というなり「もっとマジック練習します!」という後輩マジシャンがいました。おちつけ。そうじゃねえ。
パフォーマンスの説得力は──世界観は──細部にやどります。むしろマジック意外の話だと思うのです。
・おどおどしていた
・どや顔で魔法を語ってるのに髪型がボサボサだった
・スーツが黄ばんでいた
・レディに目をあわせることができない
・観客の社会一般レベルのジョークに気の利いた返しをできなかった
・不潔
・時計が安っぽい
・道具をいれる百均ケースがみえた
・爪がきたない
・マジックがはじまる前にコミュ障な感じがでてた
・実は下着泥棒だ
そんな感じです。こうした細部をよせあつめて「このマジシャンを名乗る人物に自分の貴重な時間をあずけてもいいのか?」と観客はおしはかるわけです。ザ・ジャッジ。この判決で否をくらうと──というわけです。
たしかに気の利いたフレーズを仕込んでおけば、その場はかわせるでしょう。しかし本質的には、その前の段階で、気をつけておくべきことがあるのかもしれません。
雨漏りをしたときに天井だけを治して安心するのでなく(また天気次第で再発します)そもそもの配管部分を修理する必要があるというわけです──気づきにくい裏の細部を。
邪魔したくない世界観はあるか?
②そうした場所で演じざるをえない演者のブランディングミス。
場所ごとに観客の属性があります。
キレイゴトでもディスでもなんでもなく、そういうものです。アルコールにしても居酒屋は「大量に飲む楽しさ」の雰囲気があります。カッコいいバーは「しっとり飲む楽しさ」の雰囲気があります。当然、店の空気や、店員に対する態度もかわります。
入場無料の商店街のお祭りと、会費10000円の企業パーティでも、来客の心構えはちがうでしょう。心構えどころか年齢層やあらゆるものが変わります。例えば後者に子供の姿はほとんどみえないでしょう。
他にも「観客が積極的にマジックを楽しもうとしている場所か?」という指針もあります。
例えばマジックバーや、マジシャンを呼べると告知しているレストラン、自主公演のショウなどであれば、観客は、そのつもりでやってきてくれます。反対に、お祭り、地方のイベント、別の企画の会場ブースなどでは、マジックをみることなど頭にない人々をつかまえて演じることになります。どちらの方が演じやすいかはハッキリしております。
念のためにいっておくと、これは「違い(におけるマジックのしやすさ)」の話をしているのであって「善し悪し」の話ではありません。世の中はマジックを演じるために作られていません。場所ごとに差異があります。
そして、これが大事なのですが「どこで演じるかも含めてマジシャンの自由」なのです。
もちろんギャラや生活費との相談もあるでしょう。しかし仕事のとりかたを工夫することはできます。というより工夫できないと、しんどい人生になるのはなんでもそうでしょう。マジシャンであることが、ビジネスを考えないでいい理由にはなりません。マジシャンは生き方の前に職業なのですから。
そしてマジシャンの仕事には「演じたい・演じやすい場所で演じる」ための工夫も含まれます。
ブランディングとマーケティングです。フリーランスという生き方をする以上、必須科目みたいなものです。カードをシャッフルするだけじゃ生きていけないのが辛いところ。しかし真実です。
あえてキツい言い方をすると、もしパフォーマーが観客に苦しめられているのなら、それは一周まわって「そこで演じるように自分をデザインしている自分の責任かも」というわけです。
もちろん、それが全てではないでしょう。僕にシャイニングウィザードをかましたい気持もわかります。しかし「他人は変えられないが、自分は変えられる」という金言を考えるに、そう考えて行動するのがお得なのです。マジシャンとして生きるなら。
そこで演じると決めているのは誰だろう?
以上、二点です。観客のせいにしてるより、自分のせいにする方が状況は変わるかもしれないというお話でした。
あ、でも、たまにマジでやばい人はいるから。そんときは君は悪くない。泣くな。泣いてもいいけど戦え。