マジックショウは、基本的にもりあがります。
拍手もあれば、大興奮のまま、悲鳴すらとびかいます。
おわったあとも、賛辞をいただけます。
「すごいもりあがった!」「たのしかったよ!」「ぜひまたきてくれ!」と、ほくほくです。
けれど、それを、そのままうけとるのは「こわいな」と、いつもおもいます。
いつまでもヒーローの気分でいられません。
かえり道、ふと考えてしまいます。
はたして、今日のショウは「本当はどれくらいのものだったのか」と。
観客のもりあがりは、いくらか、へらしてうけとるべきだとおもうのです。
理由を三つあげます。
①マジックは「ウケる」ものだから
「鉄板ネタ」を演じてはいけないにも関係しますが、マジックは実力以上にふるまう技術です。
だから、観客の拍手も「そのままこちらにむけられたものでない」のです。
嘘をついて、嘘を「信じてくれた結果」です。
真実の、こちらの正確な力量にみあったものではありません。
②観客は「もりあがりたい」ものだから
マジシャンなら、身内だけのパーティによばれたこともあるでしょう。
ホームパーティ、店をかしきり常連だけのイベント……結婚式の二次会。
そこで「うれしくなるほどもりあがった」経験はありませんか。
それが危険です。
そもそも、身内だけのパーティは「もりあがるキッカケ」に、うえているのです。
みな、楽しむためにきているのですから。
大歓声も、マジシャンの力でもりあげたのでなく、
もりあがりの「キッカケにされた」という、いいかたもできるでしょう。
③空気をよんでくれただけだから
パーティに、ゲストがあらわれて、なにか披露したら、反応するのが礼儀です。
というより、無視することはできない。
まさに、観客に「つきあってもらっている」状態です。
可能性もゼロではありません……こわい話です。
これは「本来の評価は、もうすこし低いはずだ」という話です。
「観客に対して斜にかまえる」という、ことではありません。
その拍手をうけとるべきでない、のではありません。
むしろ、満面の笑みで「ありがたやありがたや」と、うけとるべきです。
本当にうれしいことですし、
われわれには、観客の前で「嘘をつきとおす義務」が、あるのですから。
観客に「いや、そんな拍手いらないですよ。本当は……」と、へりくだるのもちがいます。
謙虚な姿勢とは、自分に対してこそ、しめすべきです。
一切は、舞台裏での話なのです。
次のショウのためには、うぬぼれることなく、自己評価する必要があります。
そんなとき、考えるようにしているのです。
「さて、うぬぼれはここまでにして……本当の成果は、どれくらいだったろう」と。